サイモン シン・エツァート エルンスト「代替医療解剖」
お金と健康は人生においてかなり大切な2つの要素だと思うのですが、その2つに関して誤った選択・判断をしないためにもこの本は必読だと思います。
新潮社 (2013-08-28)
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エセ科学を徹底的に批判する「カール・セーガン 科学と悪霊を語る」とあわせて、これからまだ長い人生を送る若い人には特に、あるいはお子さんがいる方にもぜひ読んでおいて欲しい。
僕はノストラダムスの予言を高校生くらいまで信じていたし、昔の嘘だらけのテレビで流れていたネッシーや雪男、UFO、宇宙人をなかば信じていたけれど、今はオカルト、占い、血液型といった類のものは一切受け付けないし、無宗教という立場だ。では、何を信じているかと問われれば、「科学」と答える。
そんな僕でも、昨年はじめに首を痛めて、それがなかなか良くならないので、いろいろなことを試してみたのだが、その中で何の抵抗もなし鍼を試してみたのだ。じっさい、鍼をやってもらったあと、何となく良くなった気分になったのだが、本書ではそれ(鍼)がまったく科学的には効き目がなく、プラセボ効果(簡単に言ってしまうと気のせいで良くなる効果)しか期待できないことを暴いている。
詳しくはぜひ、本書を読んでもらいたいのだが、忙しくて読めないよ、という人のために、本書に書かれている知っておいた方が良いことをここに書き留めておく。
- 瀉血という血を抜く行為が、病気に効くと信じられていて、近代までずっと行われていた。このように一昔前までの医療行為のほとんどは科学的に間違ったものであった。
- ではなぜ、昔の医者という職業が成り立っていたかという、お医者さんの格好をして(白衣を着るなどほかの人と違う格好をする)これこれこういう治療法があなたには効きますよ、と言われて科学的には何の効果もない行為をおこなってもらったり、あるいは効果のない薬を飲むだけでも、プラセボ効果、つまり気のせいだけで悪いところが回復したり、痛みがうすれる効果が実は人体にあって、その効果が意外とあるからだった。
- 現代になってようやく科学的な方法で医療行為が効果があるか、あるいは薬が効果があるかがわかるようになった。その科学的方法の代表例が臨床試験であり、薬とニセ薬をAとB2つのグループに与え、有意な差がでれば、その薬は効果があったということ、そうでなければ効果がないと判定できるようになった。このときプラセボ効果を排除するため、患者の方は自分が本物か偽物のどちらをもらっているのかわからないようにしなければいけないし、薬あるいは治療行為を与える方の医者も自分が本物を与えているのかそうでないのかがわからないようにしなければ正確に判定はできない。
- 鍼は、患者も行為者も自分が本物か偽物のどちらのグループなのかをわからないようにすることが難しかったため、かなり最近までプラセボ効果を排除した臨床試験が難しかったが、技術的に偽鍼(うってるように見せかけて実は刺さらない鍼)を作れるようになってきて近年正確に効果を測れるようになってきており、その結果どうやらプラセボ効果しかないようだ。
- 本書は、このように丁寧に臨床試験の結果などを比較したり、科学的な検証をおこなっており、その結果、鍼、ホメオパシー(なぜこんなものが欧米では信じられているか謎なくらいトンデモな代替医療だが)、カイロプラクティック、そしてほとんどのハーブに科学的な効果がないことを暴いている。
- カイロプラクティックまでも批判されているのは驚きではあるが、腰痛に限っては効果はあるのだが、その効果は通常医療と同程度であり、通常医療のほうが安価であるし、また危険性で言えば、通常医療のほうが安全であるということを知っておく必要がある。
- プラセボ効果があるのなら、鍼などの代替医療でも構わないじゃないかという考えもあるかもしれないのだが、それよりも効果がある通常医療があるにも関わらず、通常はそれよりも高価で、リスクもある代替医療を選ぶという選択は問題であるし、何よりも、それよりも効果のある通常医療があるにもかかわらずそれを排除して代替医療を選んでしまうというのは大問題と断じている。代替医療を信じるあまり、科学的に効果があるワクチンを打つことをこどもに認めない親がこれにあたる。
カイロプラクティックも鍼も何の疑いもなく行っていたのが個人的にはショック。「臨床試験」をキーワードにして、これからは賢明に判断していきたい。
2018/09/01 09:00:00